【洋書】生きる価値のある人生とは何なのか?「Me Before You」 by Jojo Moyes あらすじ&感想

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今回紹介するJojo Moyes(ジョジョ・モイーズ)「Me Before You」は、今まで読んだ洋書のなかでもお気に入りの本の1つ。

イギリスを舞台にしたこの作品は、主人公の女性ルイーザと障がいを持つ男性ウィルの心の交流を描いています。

安楽死などの重いテーマを扱いながらも、生き生きとした登場人物の描写やユーモアのある会話のやり取り、予想もしない展開を見せるストーリーなどに引き込まれ、すらすらと読めてしまう洋書です!

目次

 ▶あらすじ
 ▶ルイーザとウィルの心の交流
 ▶物語を面白くする様々な対比
 ▶生きる価値のある人生とは何なのか?
 ▶続編「After You」

あらすじ

主人公のルイーザ(ルー)・クラークはイギリスの小さな町に住むごく普通の26歳の女性。6年間働いていたカフェが突然閉店し職を失いますが、特に何の資格もスキルもない彼女はなかなか新しい仕事を見つけることができません。

一方ウィル・トレイナーは裕福な家庭出身の35歳の男性。以前はやり手の実業家で活動的な人物でしたが、2年前に起こった交通事故によって四肢麻痺になり、今ではほとんどの時間を家の中で過ごしています。

ルーはひょんなことから、ウィルの身の回りの世話をする仕事を紹介されます。

 

最初はルイーザが何を言っても冷淡な態度を取っていたウィルですが、2人は様々な出来事を通してだんだんと心を通わせていきます。

しかしある日ルイーザは、ウィルが考えている衝撃的な計画、そしてウィルの母が自分を雇った本当の理由を知ってしまうのです。

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※以下ネタばれを含んでいるので、未読の方はご注意ください。

 

ルイーザとウィルの心の交流

この本を読んで最も心動かされたのが、様々な出来事を通してルイーザとウィルが徐々に心を通わせていく様子です。

最初はまったくうまくいかないどころかお互いを嫌いあっていた2人でしたが、いつしか障がいを持つ人とその世話役といった関係を超えて、お互いに影響を与え合うかけがえのないパートナーになっていくんです。

 

ルイーザはなんとなくカフェでウエイトレスを続けていただけで、将来やりたい職業も成し遂げたい目標も何もありませんでした。

けれどウィルは、彼女に新しいことに常に挑戦することや、時間を無駄にしないことを力強く言い聞かせます。

いつも当たり前にできていることが、いつの日か突然できなくなるかもしれない。そのことをウィルはよく知っているからなのだと思います。

 

一方ウィルは、最初はルイーザが何をしても嫌味を言っていました。

でもある時、ルーが「私はお金が必要だからこの仕事をしているの!」と勢いで言ってしまい、ウィルは誰かが自分に対してこんな強気に言ってくるのが珍しかったのか、少し驚いた様子を見せます。

これを機にウィルは相変わらず皮肉は言うものの、ルーの冗談に声を出して笑ったり、外に出かけるようになったり、他の人には見せない面を少しずつ見せるようになっていくんです。

 

特に印象に残ったのは、2人がお城に出かけたときの出来事。ルイーザが城の迷路でパニックに陥って泣いている時、ウィルはルーの手を握って迷路から連れ出してくれます。

実はルーは若い頃同じように迷路で迷った時、複数の男性から性的に嫌がらせを受け、当時酔っぱらっていた自分にも責任があるんじゃないかとずっと自分を責めていました。

このことを打ち明けると、ウィルはルーに「君は何も悪くない」と優しく、そして力強く言います。

またウィルもルーに、誰にも打ち明けたことのない周囲から哀れみや嫌悪の目で見られることの心情、以前大好きだったことができないことのもどかしさを語るのです。

2人の距離がぐっと近くなったようで、心が温かくなるような場面でした。

 

また良き友人からいつしかお互いに惹かれあっていく様子も繊細に描かれていてすごくよかったです。

ルーがトリーナに「彼のことが好きなの」とそっと打ち明けるシーンは、微笑ましくて思わず笑顔がこぼれてしまいました。

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物語を面白くする様々な対比

もう1つ、この物語の人間関係を興味深いものにしているのは様々な対比だと思います。

 

まずは上流階級と労働者階級の対比です。

裕福で家中にあるものが高級品のトレイナー家は、一見誰もがうらやましがるような生活をしているように見えます。けれど実はウィルの父が浮気をしていたり、ウィルの妹は兄よりも自分のキャリアを気にかけていたり、表面上は家族のようでも、実際それぞれの気持ちはバラバラのようです。

一方でクラーク家は笑いがあふれる温かい家庭ですが、ルーや父・バーナードの失業、妹・トリーナの大学への復帰などで家計は常に厳しい状態です。上流階級が集まるアリシア(ウィルの元カノ)の結婚式で「私は本来ならあそこのウエイトレスだった」とルーが言うシーンは印象的でした。

 

次にルイーザとトリーナの姉妹の対比

ルーはどこか自分の殻に閉じこもっているようで、特に大きな夢も目標もありません。

一方トリーナは外向的で、学ぶことに対しても貪欲。ルーの視点からは、トリーナは自分よりも頭がよくて自由奔放で・・・とどこか引け目を感じているように描写されています。またトリーナの大学復帰のためにも、自分が家計を支えなければならないことに不満をもらすシーンもあります。

ただ何かと衝突しあうこともある姉妹ですが、終盤でルーが両親の猛反対を押し切ってウィルのもとへ行こうとしたときに、1番に理解を示してくれたのも彼女でした。

 

最後にウィルとルーの彼氏であるパトリックの対比です。

ルイーザの誕生日パーティーでパトリックはルーが普段つけないペンダントをプレゼントしますが、ウィルはルーが子供の頃大好きだった黄色と黒色のしましまタイツ(!)をプレゼントします。

6年間も付き合っているパトリックとたった数か月前に知り合ったウィルですが、どちらがルイーザをよくわかっているかはっきり分かってしまう場面でした。しましまタイツに興奮して今すぐ履きたい!とまで言ってしまうルイーザの喜びようには、パトリックがちょっとかわいそうにも思えてしまったけれど。

パトリックはルーと6年間もキープするかのように付き合っておいて、ウィルが現れた途端彼女は自分のものだと主張するように行動する嫌な奴だったんですけどね。

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生きる価値のある人生とは何なのか?

この本を初めて読んだときは、ウィルが最後に下した決断は本当に正しかったのかと疑問に思いました。

もし自分の家族や恋人がウィルのように安楽死を考えていたら、おそらく何があっても生き続けてほしいと思います。

一方で、もしそれが自分自身だったら、ひょっとすると安楽死という選択を残しておいてほしいと思うかもしれません。

 

安楽死は簡単に良いかか悪いか結論を出せる問題ではないし、このエンディングを批判する人がいるのも理解できます。

けれど確かなのはどんなに思いやりがあって他人に共感できる人でも、その人の気持ちを100%理解することは不可能で、自分の価値観や思い込みで他人の決断をジャッジするのは良くないということ。

ルイーザはウィルを素晴らしい旅行に連れて行って、自分の彼への想いも伝えて、これだけ手を尽くしたのだからウィルの気も変わったはずだ、と一瞬思ったはずです。

けれど、ウィルは今の自分は本当の自分じゃない、自分の生きたい人生じゃない、ルイーザの愛だけでは十分じゃないと言って最後まで決意を変えることはありませんでした。

ルーもこのことに気付いたから、最終的には家族の反対や世間からの批判もすべて受け入れる覚悟で、ウィルの決断を尊重することに決めたのだと思います。

 

安楽死は正当化されるべきだろうか?そもそもそれは誰が決めることなのか?どんな人生にも必ず価値があるなんてきれいごとだろうか?と本を読み終わった後ももやもやした気持ちが残りました。

ルイーザとウィルが2人で新しい人生を歩もうと決意するエンディングであってほしかった・・・と正直最初は思いました。

その反面、よくある都合のいいハッピーエンディングではなく、心に突き刺さるような悲しいエンディングだったからこそ、これほど読者に疑問を突き付け深く考えさせてくれるような作品になったのだと思います。

 

この作品はエミリア・クラークさんをルイーザ役、サム・クリフリンさんをウィル役として映画化もされています。

映画自体はヒットした反面、一部の人たちからは「まるで重い障害のある人の人生は価値がないように描いている」など厳しい批判もあったようです。

海外では違うのかもしれませんが日本では、ごく普通の女の子が裕福なイケメンと恋に落ちる絶対泣けるラブストーリー、となんだか軽い感動ムービーみたいに宣伝されているのを見かけてなんかちょっと違和感があるなあと思いました。お客さんを呼び込むにはこういうキャッチコピーがいいのはわかるのですが。

悲しいエンドに涙を流して終わりじゃなくて、安楽死についてあなたはどう思う?と観客がこの問題について考えることを促すような面をもっと出してくれたらよかったのになあと思いました。
 
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続編「After You」

この本の続編「After You」では、ルイーザがウィルに関係する思わぬ人物に出会うことから起こるどたばたを軸に、今まで知ることのなかったウィルの新しい一面を知っていきます。

また、悲しみに暮れていたルイーザがウィルの死から立ち直り始め、自分自身の新しい人生へと踏み出していく様子も描かれています。

 

↓「After You」を読んだ感想も別の記事で紹介しているので、よければチェックしてみてください!

【洋書】愛する人を失った悲しみを乗り越えて「After You」 by Jojo Moyes あらすじ&感想

2017年8月22日

 

↑続編である「After You」の原書(日本語翻訳版はまだ出ていないようです)。

 

↑エミリア・クラークがルイーザ、サム・クラフリンがウィルを演じる2016年の映画「世界一キライなあなたに(原題:Me Before You)」

小説を読んだ後に見て比較するのもおすすめです。

 

「Me Before You」の原書。

 

↑日本語翻訳版の「ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日」



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