今回紹介するのは、Jojo Moyes(ジョジョ・モイーズ)の2015年の小説「After You」です!
この本は以前紹介した「Me Before You」の続編となっています。
前作エンディングでは、ルイーザのウィルの気を変えようとする努力もむなしく、彼はディグニタスでの安楽死を選びます。
目次
▶あらすじ
▶悲しみを乗り越えるまで
▶自分の気持ちを受け入れる
▶新しい人生に踏み出す勇気
▶まとめ
あらすじ
ウィルがディグニタスで息を引き取ってから18か月。
ルイーザはいまだ彼の死から立ち直れておらず、ことあるごとにウィルのことを思い出しては深い悲しみと喪失感に襲われます。
ある日酔っぱらってアパートの屋上を歩いていたとき、どこからか女の子の声が聞こえ、驚いたルイーザは屋上から転落してしまいます。
病院で目覚めたルイーザは、あの出来事以来初めて両親に会います。
両親は娘が自殺を図ったと思いひどく心配しますが、愛する人を失くした人々が集う支援サークル「Moving On Circle」に行くことを条件に、ルイーザがロンドンのアパートに戻ることを許可します。
そしてある夜、ルイーザのアパートの玄関先に見知らぬ女の子が訪ねてきます。
リリーと名乗るその16歳の女の子は、なんとウィル・トレイナーの娘だというのです・・・。
※以下ネタばれを含んでいるので、未読の方はご注意ください。
悲しみを乗り越えるまで
本作にはルイーザをはじめとし、ウィルの家族・ルイーザの家族などおなじみのキャラクターが再び登場しており、それぞれの人物のその後を描いています。
ストーリーの中心となっているのが、愛する人をなくした悲しみを乗り越えようとする過程。
物語の最初には、ウィルを失った悲しみや彼の決意を変えられなかったことへの後悔に苦しみ、ルイーザが自分の人生において前進することができない様子が描かれています。
けれどそんな彼女が、ウィルの娘・リリーや新たな男性・サムに出会ったことを通して、葛藤しながらも、もう一度人生を生きる気力を取り戻していくのです。
パリのカフェでウィルからの手紙を読み終わるシーンで終わった前作。
あれから18か月後、ルイーザは当時は正しいことをしたと思っていたけれど、本当はもっと何かできたんじゃないか?彼の気を変えることができたんじゃないか?と罪悪感に苦しんでいます。
そんなときに彼女の目の前に現れたのが、ウィル・トレイナーの娘だというリリー。
リリーは反抗的なティーンエイジャーで、知らない人を勝手にアパートに連れ込んでルイーザの大切なジュエリーが盗まれるなど、最初はトラブルばかり起こします。
印象的だったのは、ルイーザたちがリリーを救うエピソード。
家に何日も帰っていないリリーは、実はピーターという男の子に卑猥な写真を撮られて脅されていました。そして偶然通りかかって助けてくれた義理父の同僚・ガーサイドもまた、リリーをピーターから助けたあと写真を使って彼女を脅します。
その後リリーの写真を削除させるため、ルイーザがサムたちと協力してガーサイドを追い詰めるシーンはすかっとしましたね。
そしてルイーザはリリーに、自分も昔酔っていたとき男性に性的な嫌がらせを受けたこと、そしてそれが自分の責任だと思っていたことを話します。
そしてリリーにあなたは何も悪くない、と語りかけます。ちょうどウィルがルイーザに言ってくれたように。
リリーがルイーザから父について知っていくのと同時に、ルイーザもウィルへの気持ちに向き合うことができたんじゃないかと思います。
終盤ルイーザのアパートの屋上には、「Moving On Circle」のお別れ会として、ルーやサークルのメンバー、リリー、ウィルの家族、ルイーザの家族、リチャードたちが集まります。
サークルのメンバーは一人ひとり空に向かって、亡くなった自分の愛する人に向かって自分の想いを語ります。
「私がここにいるってことは、ある意味あなたもまだここにいるってことよ」というリリーの言葉が、切ないけれど胸に響きました。
自分の気持ちを受け入れる
またこの物語では、ルイーザの前に新たな男性が現れます。屋上から落ちたルイーザを助けてくれた救急救命士のサムとは、出会ってからすぐお互いに惹かれあいます。
ただサムとの恋が進展しようとするたび、ルイーザの心の中にはウィルが浮かんでくるんです。
それが心に引っかかって、ルイーザはサムとの関係に勇気を出して踏み出す事が出来ませんでした。
けれどサムが銃弾に倒れて生死の境をさまよっていたとき、ルーはやっとサムを失うことの怖さ、そしてどれだけ彼のことを愛しているかに気づかされたんです。
特に心に残っているのは、病院で目覚めたサムが「君の声が聞こえた」とルイーザに言うシーン。
ウィルはルイーザがどれほど彼を愛していても、自分が生きたいと思うには十分じゃないんだと言いました。
けれど生死をさまよっている時、サムには自分の声が届いたんだ、彼にとっての生きたいと思う十分な理由に自分はなれたんだ、と気づいたルイーザ。
ルイーザがサムにキスをして、うれし泣きしながら病室を出ていくシーンは胸がいっぱいになりました。
「他の人を愛するようになったからといって、ルーがウィルを愛してなかったことにはならないんだよ」とリリーが言っていたように、ルーもやっと新しい人を好きになってもいいんだと自分の素直な気持ちを受け入れ始めることができたんじゃないかと思います。
新しい人生に踏み出す勇気
前作で一緒にウィルの家で働いていたネイサンは、ルイーザにニューヨークでの仕事をオファーしていました。
しかし、ルイーザはリリーのことを何とかしなきゃいけないから、といってずっとこの仕事を断るつもりでいました。
ウィルを助けられなかったこと、ウィルのためにもっと何かできたんじゃないかと、彼女が罪悪感を感じていたのも原因だったのかもしれません。
しかし、物語のラストでルイーザはニューヨーク行きを決意します。
ルイーザはウィルとの過去にとらわれている自分をみじめに感じながらも、同時に今の自分の状態から抜け出して新しい生活に踏み出すのが怖かったんじゃないかと思います。
だからリリーがトラブルを起こしているから、サムとの関係がよくなりはじめたから、と何かにつけてニューヨークへ行くのを断ろうとする。
けれどサムには、人生はいつ何が起こるかわからない、だからチャンスをつかめるときにつかまなければいけない、ニューヨーク行きは君にとってのそのチャンスだと思う、と諭されます。
最後ルイーザがサムに見送られながらニューヨークに旅立っていくシーンは、新しい人生に踏み出そうとする固い決意と未来への希望が感じられる素敵なエンディングだと思いました。
ルイーザのウィルを失った悲しみは完全に消えることはないかもしれません。けれど残された人たちの人生は続いていくし、いつまでも過去にとらわれて生きることはできないのです。
残された人は亡くなった人のことを忘れようとする必要はない。けれど亡くなった人の記憶を大切に持ちながらも、その人のいない新しい人生に踏み出していかなければならない。
物語を読み終わった時、そう強く語りかけられていたように感じました。
まとめ
安楽死をテーマに扱った前作に比べると、本作はそれほど気持ちが重くならずに読める作品だったと思います。
またところどころにユーモアのある会話が散りばめられていて、くすっと笑ってしまう部分も多かったです。
特に最後、仲直りしたルイーザのお母さんとお父さんがいちゃいちゃして、トーマス(ルイーザの甥)がきもい~!と言ってるのは爆笑してしまいました。
「Me Before You」に続いて、お気に入りの洋書の一つになりました!
↑前作「Me Before You」の原書。
↑エミリア・クラークがルイーザ、サム・クラフリンがウィルを演じる2016年の映画「世界一キライなあなたに(原題:Me Before You)」。
小説を読んだ後に見て比較するのもおすすめです。
↑「Me Before You」の続編である「After You」の原書(日本語翻訳版はまだ出ていないようです)。
↑日本語翻訳版の「ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日」。